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11 芽生え 小さい頃から、皆義務教育というのを受けるらしい。 言葉や、計算の方法や、歴史なんかを学ぶらしいのだけれど、私はそこへは行っていない。 小さい頃から長が直々に勉強を見てくれていた。 けれど、やらされていたのは、難しい方程式でも、永遠と長い英語のテープでもない。 音読と簡単な計算だ。 長からは、勉強の種類ではなく、暗記の方法と、効率よく勉強する術を教わった。 だから、ある程度それらが出来た時には、 辞書をはじから読むだけで、理解することができた。 テストというものを受けたことがないから、自分がどの程度できるのかはわからないけれど。 昨日もらったドリルを一通り流し読みをした後、 ゆっくり辞書を最初から読んだ。 寝る前の読書にはうってつけで、面白くて最期まで読みほした。 朝起きてから、一時間、走り込みの時間をドリルにあてて、 ひたすら解く。 大体、この国の言語がどうとか、歴史がどうとかというのはわかった。 計算方法は同じだったので、何てことない。 漢字がない分、楽だとさえ思えた。 昨日帰ったら届いていた荷物の中に入っていたテープレコーダーを回しながら 走り込みと柔軟をする。 イントネーションがどうのって言っていたことが痛いほどわかった。 私の今話している言葉のイントネーションは、 日本でいう方言に近いと思う。 ぶつぶつと耳で聞いた言葉を口に出して言いながらストレッチをしていると、 ダークさんが現れた。 昨日の朝と同じ様に、寝間着にボンバーな頭だ。 「お・・・おはようございます。」 正しく発音できただろうか。 そう思って、ダークさんの方を見上げると、ぽーっとしていて 聞こえているのかそうでもないのかすらわからなかった。 「・・・はよ。お前朝から何してんの?」 「ストレッチ・・・・」 そう言うと。ふーん。とさして興味なさそうに返事をして中に戻っていった。 (夢遊病?) 疑わしい位に、ダークさんは日中と違う。 ちょっと、大丈夫か、と心配してしまうほどだった。 その後、はっきりと起きたダークさんに、 昨日から頭に覚えた単語なんかを使って、話をしていると、 すごく驚いてくれた。 「お前の脳みそどうなってんだ・・・?」 一日で?とか、あの辞書全部?とかぶつぶつ言いながら その驚きぶりが面白くて、つい笑ってしまった。 そのことにも驚かれて、持っていた剣を落としたほど。 笑う。ということを黒船でしたことはなかった。 幼い頃は覚えていないけれど、 表情を読み取られることは闘いの上でこの上なく危険なことだ。 と長に言われてから、そうしてはいけない気がしていたのだ。 あまりにも平和で危機感のないこの国の雰囲気に、 思わず顔がほころぶ。 笑うことも楽しいと、ここに来て教えられた。 「あ、サチ公!」 そう言って隣の宿舎から現れたのは、昨日お手合わせした アイビーさんだった。 彼の弓は的確で、素早くて、右に出るものはいないと言われるだけのことはある。 流鏑馬だって、私は一本失敗してしまったけれど、 アイビーさんは見事にしとめてみせた。 コツをいつか、教えて貰えたらいいなと思ってたのだ。 「おはようございます。アイビーさん」 細長いアイビーさんはダークより背が低いけれど、 細い分、同じ位に見える。 「お前・・・・いつからそんなに仲良くなったんだ。」 ダークさんが私の目の前にはばかって、私の視界はダークさんの 黒いシャツでいっぱいだった。 「昨日から?犬コロみたいじゃない?サチって。」 「いぬ〜?」 犬って・・・。って思いながらも、小さいからかなと自分のチビさを恨む。 今だって、ダークさんの肩甲骨すら見上げるほどだ。 「小さくてふわふわしてて犬そのものだろ!」 「お前の趣味にサチを巻き込むなよ」 「馬鹿にすんなよ?犬っていうのはだなー・・・」 それから道場に行くまでの間、アイビーさんの愛犬家っぷりが大いに発揮された。 黙っていればイギリス紳士のような大人の男の人っぽいアイビーさんが 表情をころころと変えて、犬がいかに素晴らしいかを語っている様は 面白かった。 ダークさんはそれを見て、あからさまに顔がひきつっている。 「あー、悪かった。悪かったよ。犬はいいな」 「そうだろ。そうだろ。な、サチ公」 いきなりふられて、驚いた。 「あ、はい。そうですね」 そして、いきなりダークさんが足を止める。 不思議に思ってダークさんを見ると、しまった。と言った。 「どうした?」 「今日・・・・会議だった。そういえば」 「えー!?早く言えよ」 月一度、全員参加の会議は王宮で行われるそうだ。 今いる道場から王宮のそこまで、30分はかかる。 「あと・・・何分ですか?」 「アイビー、今何時?」 「9時50分・・・」 「やべ・・・あと10分だ」 開始時間に合わなかったのは言うまでもなく、 三人でしこたまシアン指揮官に怒られた。 でも、そんなことすら楽しく思えた。 BACK * NEXT |