|
女なんてって 心では思ってたのかもしれない 自惚れてたのかもしれない まさか 本当に化け猫になるなんて 思ってもみなかった 06 手合わせ サチの体付きはいい筋肉のつきかたをしていることは認めるが、 所詮女だ。 力では男には勝てないし、ましてや一番隊の俺に 喧嘩売るなんて上等だ。 「やめなよダーク。大人げないよ」 そう言ってしたためるように話すビートの言葉に返事はしなかった。 雰囲気からして、サチもそこそこやるに違いない。 騎士にとって、強そうな相手を目の前にして 手を合わせたくてそわそわしてしまうのは、当然のことだ。 「・・・着替えるか?」 イブニングドレスの女相手じゃ、何分もかからないだろう。 「結構よ。」 思いもよらない返事に、驚く。 ハンデになるこそすれ、優位にはならないだろうと思っていたのに サチは笑って結構だと言った。 「その代わり、素手でね」 「わかった」 そう言って腰から剣を外すと、ビートに手渡した。 ふとサチの方を見ると、驚かずにはいられなかった。 華奢な割に大きめを着ていると思っていたけれど、 どこにそんな仕込んでいたのか、 次から次に見たこともない様な武器が出て来た。 ひとつ置く度にガシャンと重たい音がする。 ビートも呆気にとられて、口が開いたままだ。 首をならし、肩を数度回した後、 サチは、じゃあ、お願いします。と言った。 その瞳は、未だ見たことのない、 研ぎすまされた刃のような、するどい瞳だった。 真正面から走ってきたと思うと、 直前で横にそれる。 ・・・・速い。 なめてかかってた俺は、本気にならないとやられると思った。 これが、本当にドレスを着ている奴の動きか!? 右から伸びて来た手をよけてサチの左側に回ろうとしたけれど、 もう既によけられた後だった。 気付いた時には足下にサチの足が伸びていて、 毎日訓練していてよかったと心底思う。 サチは・・・俺以上に訓練していたに違いない。 この動き・・・この速さ、並大抵のもんじゃない。 「・・・ッチ」 掴んだと思っては離され、 当たったと思えばドレスのはじで、やりにくいことこの上なかった。 もらったと思って手を出したその時、 俺の肩にサチの手がのって、ひらりとまるで風が通り過ぎたかのように サチの体が後ろに跳んだ。 やばい、取られる。 そう思った瞬間、 サチの手は俺の首をしっかり捕らえていた。 俺の手も、サチの首もとにしっかりと添えられている。 こちらは少し息が切れているというのに、 サチはあまり乱れていなかった。 「・・・おあいこね」 そう笑ったサチは綺麗な笑顔だった。 ぞくっとするような、妖艶な笑みに、背筋を汗がしたたる。 拍手がしたと思って目をやると、 ビートの隣に、騎士軍指揮官のシアンが居た。 「お見事。」 この人は、笑顔でのんびりしているように見えるけれど、 指揮官だけあって、強い。 騎士軍のなかでも抜群のキレ者だ。 「どうしたんですか?珍しい」 ビートが嫌そうな顔をしながら聞く。 昔、騎士になりたいと懇願したビートをあの手この手で 交わして、しまいにはもう言いません。という契約書に判を押させたのだ。 ビートの執念は見ていて拍手ものだったし、シアンの笑顔で 毒づくあの日々は見ていてヒヤヒヤした。 「いや、奇跡の子が現れたと聞いてね。お目にかからねばと思っていたんだけれど・・・」 面白いものを見れたよ。と言ってシアンはにこりと笑った。 サチは乱れたドレスを手早く直し、いつのまにか床に山積みになっていた武器も なくなっていた。 サチの素早さに驚かされる。 ニホンという国には、サチのような者が山ほどいるのかと思うと、 自分の不甲斐なさに情けなくなる。 もし、サチがドレスじゃなかったら。 そう思うと、握った手のひらが汗ばむ。 「・・・・・・くそっ」 そう言って、部屋を出る。 悔しかった。 女相手に、互角・・・・それ以上の結果は出ないと余裕をかましていた 俺は馬鹿だ。 あのサチの動き。 体の急所ばかり狙ってきやがる。 あれは、"誰かを守るための術"ではなく、"誰かを殺めるための術"だ。 あんな小さい体で、 あいつはどれだけの人を殺めてきたのだろう。 最初に出会った時にかすめた血の匂いは、 サチが殺めた誰かのものなのだろうか。 「あいつ・・・・だからあんなに」 体に痣が出来ていたのか。 きっと、俺が思っている以上に、サチは練習を積んでいるに違いない。 でなければ、底なしの天才だ。 王宮のあちらこちらでは、奇跡の子が現れたと浮き足立っていた。 どこにいても、ひそひそと話し声が聞こえる。 安堵しきった、嬉々としたみんな声に、 俺は複雑だった。 BACK * NEXT |