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私の存在価値なんてちっぽけなものなのに それを取り上げられたら 生きていても意味がない 大袈裟かもしれないけれど 私はそういう場所でしか息もできない 05 ドレス それからしばらくすると、侍女(とダークさんが言っていた)が現れて、 これに着替えて下さいとドレスを渡された。 開いた口が塞がらないというのは、このことだと思った。 「え?コレ・・・・ですか?」 「さようでございます」 助けを求めようとダークさんの方を見るけれど、 首をかしげられて終わってしまった。 これは・・・・ないだろう。 ピンクのシルクの生地にこれでもかと言わんばかりの レースがついている。 いつだったか調べたことのある形だった。 そうそう、プリンセスラインのふわふわしたやつだ。 こういう類いのものは、産まれてこのかた着たことがない。 「用意して頂いてなんなんですが・・・もっと落ち着いたものはありませんか?」 「・・・・これでも控え目なのですが」 どこが!? と言いたい気持ちをこらえて、手にしたドレスを広げる。 いや・・・これはいくらなんでも着れない。 着た自分が面白すぎて笑えなかった。 はぁと心の中でため息をついてダークさんの方を見ると、 ダークさんの服装は、とてもラフで、 Tシャツのようなものに、黒のパンツ、 最低限の防具と腰に剣を携えている格好だった。 「あの・・・ダークみたいな服ってないですか?」 その質問に侍女とダークさんが驚いた。 「そ・・・そんな、恐れ多くて・・・レディの着るものではありませんわ」 わたわたと話す侍女の顔は蒼白だ。 そんなにも、こちらの世界では肌の露出が禁止されているのだろうか。 「これは騎士軍のものだからな。一般の者は着れないよ」 少し困った顔をしながらダークさんが窓に寄りかかって言う。 大柄だと思っていたけれど、ダークさんは騎士だったのか。 と妙に納得してしまった。 「えっと、じゃあ、このままでいいです。」 その返事に侍女の顔がますます青くなる。 何かまずかったのだろうか。 「どうしましょう、ダーク様・・・」 「弱ったな。」 この国を救ってくれるであろう、救世主がこの格好では 示しがつかないと言われてしまった。 「国家の品位が疑われるよね」 ガチャリと分厚いドアを開けて、ビートさんが戻ってきた。 その後ろには、目の前の侍女と同じ格好をした女性が 赤だの黄だののドレスを持ってスタンバイしている。 「私・・・着慣れてなくて。動きやすい服装だと助かるんですけど」 むしろ、動きやすくないと困るのだ。 スーツの中には夥しい数の武器を隠している。 それを付けて、重そうなドレスを着たら、 動けるものも動けない。 「それより質素ってなると・・・寝間着しかないよ?」 そう言ってビートさんが侍女の手から取り出したのは、 ルビー色のシンプルなイブニングドレスだった。 上質な生地だとはたからみて分かるそのドレスは、 まだ着れるかもという感じだった。 「あ、これがいいです。」 ほっとしたのもつかの間、侍女達が小声で騒ぎ出した。 それもそうだ。寝間着を昼間から着ようとしているのだから。 あれこれと言ってるうちにあのふわふわフリフリドレスを 着させられたらたまらないと思って、別室で着替える。 手伝いを丁重に断ったけれど、 着替え終わった頃にアクセサリーを持った侍女が入ってきた。 あのふりふりドレスをはじめに持って来てくれた侍女だ。 「本当に、よろしいのですか?」 「私、着たことなくて・・・ああいうドレス」 「さようでございましたか」 それは少し驚かれたことでしょうね。と言って笑ってくれた侍女は すごく素敵だった。 男社会の中で生きてきた私に取って、 こういう女性らしい女性とは初めて接した。 むずかゆくて、羨ましい気持ちと、くすぐったい気持ちが混じっていた。 真珠のシンプルなネックレスと揃いのイヤリングを 選んでつける。 勿論、肩丸出しのドレスの中には きっちりと武器を仕込んでいる。 「これ、よければお使い下さいませ」 そう言って、侍女はレースのストールを持ってきてくれた。 「ありがとうございます」 そう言って笑うと、侍女は真っ赤になって 「とんでもございません」とだけ言った。 この国の女性は、皆こんな風に健気で控え目なのかと思うと、 ビートさんやダークさんが私を見て驚いたに違いないと思った。 「すいません、お待たせしました」 と二人の待つ部屋へと行くと、 二人とも狐につままれたような顔をした。 ・・・・やっぱり変だったかな。 と思ったけれど、二人ともが顔を赤くしてそっぽを向いてしまったので、 感想すら恥ずかしくて聞けなかった。 「今日だけ・・・ですよね」 「え!?違うよ」 そう言ったビートさんの横には、 イブニングドレスが山ほど掛けられたクローゼットが見えた。 「こ・・・困ります」 毎日こんなぴらぴらを着るなんて、 恥ずかしいことこの上なかった。 それに、毎日鍛えないと筋肉は落ちる一方だ。 私の取り柄は、黒船で教わった人を殺めるための技術しかないのに、 それを失ってしまったら、私はただのでくのぼうだ。 「困るって言われてもな・・・」 私も困るよ。とビートさんに苦笑されてしまった。 何とか・・・・この服から逃れられないのだろうか。 そう思ってダークさんの方を見てひらめいた。 「そうだ。私を騎士軍に入れて下さい。」 ダークさんの服装は騎士のものだと言っていた。 確かに、ビートさんはモーニング・コートを着ているし(上着は着てないけど) 男の人は大抵、こういう格好なのだろう。 「え!?」 「は!?」 見事にハモって二人とも驚いてくれた。 すごく名案だと思ったのに。 自惚れではないけれど、私もそこそこやれると思う。 伊達に19年間。あの組織にいたわけじゃない。 「私は・・・・日本で騎士軍のような所へいたんです」 日本で言うと陸軍とか、そういうのにあたるのだろうけれど、 まさか殺人集団に居たなんて口が裂けても言えなかった。 それに、それ以上の適切な言い回しが思い浮かばなかった。 「だから、私を入れて下さい。」 そう言った私に、ビートさんは顔をしかめて、 ダークさんは怒っているようだった。 「騎士軍をなめんな。女が入ってどうにかなる場所じゃねぇよ」 真っ直ぐにつきつけられる視線を、絶対外さない。 「わかってます・・・。ただ、テストする機会くらい下さい」 「そんな暇ねぇよ」 「じゃあ・・・今、ダークさんの首を取れば、入れてくれますか」 その言葉に、ダークさんよりもビートさんが驚いていた。 ダークさんは鼻で笑った後 「面白い」 と言った。 BACK * NEXT |