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小さな体からあふれる力に 一瞬 負けそうになった もし時を越えれるなら 幼い君に逢いたい この手を差し伸べて こんなに辛い思いはしなくていいよと言ってやりたい 04 化け猫 ビートに負けない程、白い肌に、 ふわふわの茶色い毛をした女は、野良猫のようだった。 下手したらこちらが噛まれそうなくらいに、危険な動物。 起き上がった瞬間、いきなり構えられて驚いた。 この国の女性と言えば、しとやかで三歩下がった人が多い。 あんな噛み付く様な女性の瞳は初めて見た。 どんな勝ち気な女性でも、あそこまで鋭くはない。 人を警戒する、野良猫そのものだ。 無理もないなと思ったのは話をしてからだけれど、 まさか奇跡の子が本当にいるとは思わなかったし、 ビートの話を疑ってるわけではないけれど、 次元を越えるなんて果たして本当にできるのかとすら思う。 でも、 サチと言った女の服装は見たことも聞いたこともなかったし、 喋るニュアンスもどことなく異質だ。 ニホンという国すら、耳にしたことはない。 そして、この国のどの女性よりも聡明で賢かった。 頭の回転がずば抜けて早い。 「でも、本当に私は人を慈悲の心で包めるような、そんな人間じゃないんです」 まっすぐに、嘘偽りなく話しているのだろう。 瞳が正直すぎて、こちらが悪いことをしたのではないかという 錯覚にまで陥りそうだった。 首の側で揺れるサチの髪がキャラメルのような色をしている。 「私も・・・大衆もきっと、この話を知っているものならば皆、 あなたを奇跡の子だとそう信じてやまないでしょう」 揺れる大きな瞳が、信じられないと言っていた。 「別に、いいんじゃねーの。奇跡の子じゃなくたって。」 そう言った俺に、ビートもサチも驚いた顔をした。 「・・・え?何言ってんの?ダーク」 「一万年に一度の奇跡の子が現れたってだけで、民衆は安心だろ」 「・・・そうだろうけど」 「実際には何もしなくてもいいんじゃないか?」 ジンクスじゃないけれど、人は信じるものがある限り強くあれる。 些細なことでも良いんだ。 実際、サチが現れたことによって、俺もビートも少し安心している。 「そういうのって、存在が大切なんだよ。きっと」 ビートに言い聞かせるように、サチをなだめるように、 自分を納得させる為に、言葉をこぼす。 奇跡の子が現れた以上、この国は大丈夫なんだ。 と思いたいんだ。 「・・・・それもそうだね」 「・・・そっか」 同じタイミングで二人がこぼす。 幾分安心したのか、サチから気配が抜ける。 闘う者にしか発せられない、殺気が。 サチは・・・・ニホンという所で何をしていた女性なのだろう。 こんな、小さいからだに殺気を宿して、 どんな生活をしていたんだと不思議でならない。 「・・・いけない。父上に知らせないと」 奇跡の子の話は、俺やダークだけじゃない。 ずっと昔から伝わる言い伝えで、この国の者ならば 殆どの人が知っているだろう。 それは、国王も例に漏れずだ。 「少しの間、まかせたよ」 そう耳元でささやいて、ビートは部屋を出て行った。 しかし、喋りの上手なビートとは反対で、俺はお世辞にも 上手いとは言えない。 微妙な沈黙が、サチとの間に流れる。 「・・・あ、あの」 沈黙を先に破ったのはサチの方だった。 「何だ?」 「さっきはごめんなさい。・・・その、刃なんか向けて」 「・・・いや、気にしてない」 意外だった。 今にも殺しそうな気配を持っておいて、 こんなに素直に謝られるとは思ってもみなかった。 普通の、そこらへんにいる少女のように頬を赤くして、 しゅんとしているサチは、俺のよく知る女性たちと何ら変わらなかった。 そのことに、ひどくほっとしている自分がいた。 まさか、こんな小さな体で、闘っているとは思いたくなかったのだろう。 「綺麗な街並・・・」 窓から横を向いて景色を眺めるサチは、 消えてしまいそうな程に綺麗だった。 王宮から放射線状に広がる街並は、 どの窓から見ても、景色がいい。 赤や茶や橙のレンガ作りの家と 道々に植えられている季節の花は どの季節に見ても、綺麗だ。 「・・・・その格好はニホンでは普通なのか?」 今度は俺の方から沈黙を破った。 サチの来ている服は、体のラインがわかるほど ピッタリとしていて目のやり場に困る。 この国の女性はいつもドレスを来ているから、 こんな体に沿った服は見たことがない。 「スーツ?社会人なら普通ですよ」 スーツと言った黒と白の服は、サチにはあまり似合っていなかった。 サチの話す単語の殆どがよくわからない。 スーツはきっと服のことだろうけれど、 社会人とは一体なんだ? 「着替えた方がいいな、どちらにせよ目立つ」 「・・・そうなんですか?」 それは困ったな。と言ってはいるものの さして困った様に見えないサチの表情は さっきからあまりよくわからない。 「あぁいう服装が、こちらでは普通?」 窓から目配せをして見ている先には、 婦人達がお茶会から帰ってきたのだろう、 馬車から降りて笑っている姿があった。 「まぁ、あれは王族だから派手だが、ああいう形ではあるな」 サチの横に立って眺めた先には、 ビートの姉と、一番下の妹と、義姉がいた。 あの三人は集まると五月蝿い。 ぱっとサチの方を見ると、 無駄な肉のない女性にしては無駄にひきしまった腕が見えた。 さっきは模様に目を奪われてよく見ていなかったものの、 刀傷の後や、真新しい青痰があった。 足も、よく見ると痣だらけで、見ている方まで痛くなる。 サチは・・・・一体、何者なんだ? 「・・・・何?」 「いや」 野良猫どころかとんだ化け猫かもしれないと、 ふと思った。 BACK * NEXT |