誰かに優しくしてもらうことが 嬉しかったのに
それにどう応えて良いか
誰も教えてはくれなかった


03 奇跡の子



小さい頃、駄目だと言われていたのに、日中、地下の部屋から
地上へ出たことがあった。
日差しが温かくて、
持って出た敷物はお日様の、いい匂いがした。

その懐かしい匂いが鼻をかすめる。
ゆっくり目をあけると、豪華な装飾のしてある窓から、
あふれんばかりの日差しが入っていた。
薄いレースのカーテンがやんわりと曲線を描いて
ふくらんだり、しぼんだりしている。


「・・・・どこ?」


確か、私、窓から落ちて・・・・
落ちてそれでどうしたんだろう。


「気がついたみたいだぞ。」

「本当!?」

左側から声がして急いで立ち上がる。
ベットが軋んでシーツが舞った。

「え・・・?」

「えらく物騒だな」

短剣を懐から出して突き出した私に、
大柄な男の方も、剣を抜いた。
肌の白い男の方は、大柄な男に後ろへやられていた。

・・・・って何?この中世のヨーロッパみたいな部屋は。


「・・・・誰?ここはどこ?」


しまったと思ったのは、男達のうしろにある鏡を見たからだ。
普通、仕事をする時は顔をがバレないよう変装をする。
特殊メイクと言ってもいい。
シリコンで皮膚を作り、特殊なメイク道具を使って素顔を隠すのだ。
今の私は・・・素顔だった。

「ここは、アルバロス大国です。私はビート。お嬢さんは?」

そう言いながら大柄な男の持っている剣を制して
色の白い方が前へ出て来る。
闘う気がない。ということだろう。

私もそっと短剣を懐にしまうとベットから降りた。
靴のまま上がってしまっていたことに、少し恥ずかしくなった。

「私は・・・・サチです。ここは日本ではないのですか?」

日本という言葉の響きにビートさんと大柄な男も顔をしかめた。
アルバロス大国なんて、聞いたことがない。
ここは、どこなんだろう。

「俺はダークという。ニホンという国は、ここにはない」

淡々と語ったダークさんの目は黒船を思い出す。
冷たいけれど、奥のほうは温かい。そういう目だった。

「私ビルから落ちたのに・・・・何で助かったんだろう」

考えてみてもわからなかった。
脂汗をかくくらい痛かった頭痛もしないし、
むしろ霧がはれたような、すがすがしい気持ちだった。

「昔、何かの本で読んだことがあるんだけど・・・」

そう言ってビートさんが話た内容は信じ難いものだった。
この世というもののなかには、
いくつもの次元が存在しているという。
何かのはずみで、違う次元から、こちらの次元へと
移れる体質の人間がいるらしい。とのこと。
異世界。
私は、そこに来てしまったのだというのだ。

・・・・信じ難かったけれど、
そう言われると、すとんとパズルにはまるピースのように落ち着いた。


「そんな・・・」

こんな時こそ冷静にならないと。と頭を沈める。
頭が混乱した時は一度深呼吸しなさいとよく長に言われた。
落ち着かなければ、次、自分がどうしたらいいかという結論は出ない。と。

深呼吸をして、周りを見渡す。

豪華な部屋。
窓から見える、異質な景色。
目の前の、見たこともない格好の男たち。

これが異世界でないというなら、何というのだろう。


「なんで私がここに来たの?」


額に手をあてて、すがるように男達に目を向けると、
同じような目をして、二人とも立っていた。


「こちらには、お伽噺のような言い伝えがあるんです」


次から次に、ビートさんがこぼす言葉は信じられなかった。
千年に一度の大戦。
一万年に一度の奇跡の子。
左腕に鮮やかな模様。

この左腕の模様は黒船の一員だという証だと思っていた。
小さい頃から腕についていたし、
チームによって、違う入れ墨が彫ってあった。
長や泉のようにマストを張った舟に黒の十字架が彫ってある
入れ墨の方がよかったのに。と思ったことがある。
だから、自分のこの腕が、不思議だと思ったこともなかった。
最近では、痛みも覚えていない時期に彫ってもらえて
ラッキーだとさえ思っていたのに。


「・・・・何で」


何に対しての何でかわからなかった。
冷静に。冷静に。と思うのに、頭は急ピッチで回転していく。

私は、何か特別な力が使えるわけじゃない。
人を殺める技術はあっても、人を癒す、慈しむ方法なんて知らない。


神様は、私に何をしろとおっしゃっているの?


今までの償い?
それとも試練?






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