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見上げる月は、怪しくて ため息が出る程綺麗だった。 自分のしていることが "正しいこと"じゃないことくらいわかってるのに、 陽よりも暗いこの月が、隠してくれることを祈ってた 01 重力 "黒船"はその名を聞けば誰もが恐れる殺人集団。 荒れた日本を巣食う、血も涙もない人たち。 女子供も容赦しない。 自分たちの欲のためになら手段を選ばない。 その身を黒い布で包んで行動することから"陸の海賊"として その名前が知れ渡った。 「今回の仕事は・・・・そうだな、泉のチームに任せるよ」 私たちの座っている無駄に長い卓より一段上にあるテーブルに 何枚かの資料を広げて、革張りの椅子に深く腰掛けて長が言った。 何百人、地方を合わせれば何千人という黒船のメンバーを取りまとめる長。 本名は知らない。小さい頃から長と呼べと言われて、そうしてきた。 産まれて間もない時に捨てられた私を拾ってくれたのが長だった。 幸せになれるように、「サチ」にしたんだよ。 と幼い時、大きな手で頭を撫でてもらいながら言われた記憶がある。 その時の長の瞳は忘れられない。 向かう所敵なしの鬼と呼ばれた長のどこか悲しそうであたたかい眼差し。 私の全てで、 私が恐れている人。 怖くて、 恐ろしくて、 長の瞳に捕まると、そこから逃げられなくなる。 「サチも一緒かいな」 「お手伝いしてきなさいって言われたんだもの」 しょうがないでしょ。と言って、泉を睨む。 泉は黒船のNo.2だ。 赤く染めた毛がツンツンと逆立ってて、いつも不思議。 "重力"の勉強をした時、泉の頭が思い浮かんだ。 なんで重力に逆らってるの?って聞いたら、 大笑いされた覚えがある。 私は、何十とあるチームのどこにも所属していない。 長から、まだ私には仕事は早いと釘をさされているから。 私だって、ぬくぬくと19年、育ってきたわけじゃない。 物心ついた頃から刀を持って、 血を吐いても、青痰を作っても、骨折しても、 泣いて、這いつくばって、長に少しでも近づけるよう、 少しでも褒めて貰えるように努めてきた。 お陰で、剣の腕前も、射的も、そこそこだって、皆言ってくれてる。 私だって黒船の一員なのに、 去年入った新人だって、もうチームが決まっているのに、 私には、いつまでたっても所属を決めてくれない。 「邪魔だけはすんなよ」 「どっちが」 この減らず口引き裂いてやろか。と泉に口をめいっぱい広げられる。 負けじとやり返していると、長に頭をこつかれた。 勿論、泉も。 「遊んでる暇があったら、早く行け」 長の瞳は、いつだって悲しい。 怖いだけだと思っていたけれど、最近そう思う。 心ここにあらずのような、何も見てない、虚しいからっぽな目。 いつからこうだったのだろう。 最初から? 思い出してみても、よくわからなかった。 お金持ちの遊び場と言われるシック・タワーが今回の仕事場だ。 目的は、タワーの最上階で今日開催されているオークション。 中でも、何億という価値がある宝石が目当ての品だ。 けれど、それだけを頂戴するなんて紳士な集団じゃない。 見られたら、即刻抹殺。 何人もの"これから"を消しに行くのに、 泉もはじめ、黒船のみんなはコンビニに行くかのような賑やかさだ。 普段着の下に、いくつもの武器と傷を背負っているくせに、 何でもない風に振る舞うのがみんな得意で、 たまに、頭が痛くなる。 19年間、黒船で生活してきた私にとって、黒船が全てだ。 黒船のしていることが正しいと信じていたし、 命乞いをする金持ちの最期は、無様だと思っていた。 買物の最中に見かけるテレビのニュースや、 最近見してもらえるようになったインターネットを通じて、 これがいかに"常識外れ"で"人でなし"かを知った。 知ったけれど・・・私はここから出るなんてできなかった。 自分たちの欲のために、他人の人生を葬ることは悪いことのはずなのに、 自分の欲を抑えて、他人の犠牲になることは美談だと思えなかった。 何がよくって、悪くって、正しくって、そうでないのか、 今の私にはよくわからない。 もっと、大きくなればわかるのかな。 答えが出れば、私はチームに入れてもらえるのだろうか。 頭を振って、考えを遮る。 そんなこと考えたって、答えなんて出ないのに。 「何や、気分でも悪いんか?」 「ううん」 「あ、そ。」 泉は口は悪いけれど、私に優しい。 物心ついた頃にはもう側にいたから、 私にとってはお兄ちゃんのようで、 もしかしたら泉にとっては、私は妹のようなものなのかもしれない。 紳士淑女の出で立ちで、泉のチーム10人が受付へと向かう。 「招待券をご呈示下さ・・・・」 そう言った時点で受付の二人の首は、もうなかった。 立派な赤い絨毯に、濃い染みができる。 重厚なドアを開けると暗がりの中、 オークションの品だけが舞台の上でスポットライトに当たって輝いていた。 悲鳴も響かない位、 何も悪くない人たちの明日が紡がれて行く。 私はまだ許可をもらってないから、 入り口で、誰か来ないか、見張っているだけ。 妙に熱い気配を背中で感じる。 閉じたドアの向こうを想像するだけで、頭痛がした。 自分たちのしていることは、悪いことなのに。 どうして正しいと思いたいんだろう。 自分の、筋肉質なのに痩せっぽちな手足は、 こんなことをするために鍛えたものだったのだろうか。 射的で満点を取った時、長は少し笑って頭を撫でてくれた。 剣で誰かをのした時も、いい子だと言ってくれた。 それが嬉しくて、 長に少しでも気に入られたくて頑張ってきただけなのに。 本当はチームなんかに入れなくて安心してるんじゃないかとすら思う。 私は・・・・どうしたいんだろう。 頭痛が、大きくなる。 だんだんと押し寄せて支配するみたいに、痛い。 「・・・・っ」 誰かが押したのだろう、非常ベルが鳴り響く中、 あまりの痛さに、うずくまる。 頭が・・・割れそうに痛い。 「動くな!」 視線の先には拳銃を構えた警察がいた。 2人。 馬鹿ね、そんな人数じゃ、黒船に勝ちっこないのに。 ガンガンと響く頭を振って、窓際へと移動する。 「う・・・撃つぞ!動くな」 ふるふると震える腕で、私を殺せるとでも思ってるのだろうか。 そう思いながらも、頭に添えている手はじんわりとしめっている。 頭が痛くて、どうすることもできない今なら 私の命なんて、あっという間だろう。 こんな所で突然見舞われた頭痛も、 汗ばんでる体も、 悩んでる自分も、 ばかばかしくって笑えてきた。 窓に手をつくと、それと同時にパンと発砲音が聞こえた。 玉が私のすぐ横のガラスに当たって砕ける。 「あ。」 そう思った時には、体は下に向かって落ちていた。 "時間だよ" 意識を失う少し前に、誰かの声が聞こえた気がした。 BACK * NEXT |